2015年6月16日、欧州議会法務委員会は著作権法評価の最終報告書を大多数の賛成によって可決しました。

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最終報告書は、急進的右翼派のFront Nationalを除き、すべての政治会派が賛成しました。

この報告書では、EU内のデジタル単一市場を形成するため、そして何より、欧州市民の情報と文化へのアクセスを促進するために、EU著作権法改正が早急に必要である、とまずあげています。そのために、報告書は、現在欧州委員会が発表しているプランよりもより広範囲にわたるEUレベルの著作権基準を求めています。

 

この報告書はEU著作権法改正におけるひとつの分岐点です。今までの著作権議論は、著作物の権利者の保護を強める、より厳しい基準を導入することにばかり焦点が当てられていました。今回の報告書ははじめて、ユーザーの権利、文化遺産機関が持ちうる権利、研究者の権利、二次創作者の権利など、著作権保持者の権利以外の権利(公共の権利)をもう一度考え直しました。報告書は、EU市民がオンライン上で著作物を扱う際の法的不確定性に悩むことがないよう、また不当な搾取からクリエイターを保護するよう求めています。この報告書が履行されれば、クリエイターの暮らしが向上するだけでなく、すべてのEU市民が文化や教育にアクセスできるようになるのです。

この報告書で議会は初めて「公共の権利」の最低基準を設定し、これらの権利は著作権の例外として認められるべきだと主張しました。また、これらの例外はDRMや不当な契約などで制限されず、またDRMは法的に正しい手段で得たコンテンツの私的複製を制限しないように強調しました。さらに、報告書は著作権のあらたな例外措置を付け加えました。

たとえば、

  • 図書館やアーカイブサービスが保有するコンテンツのデジタル化を効率的にできるようにすること
  • 図書館のオンライン上のe-lendingを可能にすること
  • データマイニングを可能にすること

などが例外措置として加えられました。

 

苦戦した修正過程

いっぽうで、修正の過程で取り消されてしまった重要な項目もありました。

たとえば、このレポートではEU加盟国すべてに著作権の例外措置を義務化することはできませんでした。これによって、EU市民が国境を越えて著作権で保護された作品をやりとりする権利が損なわれてしまいました。また、将来の技術発展によってもたらされる予測不可能な状況へのフレキシブルな著作権例外措置に関しても、多数の同意を得ることができませんでした。

 

著作権保護期間も短縮されず、そのままとなりました。現行の著作権保護期間は「20世紀のブラックホール」として知られ、作品が商業的に活性化していないのになお著作権で保護され、誰も使えない状況になっている作品を生み出し続けています。現行の保護期間では、私たちの文化的遺産の多くは所在不明の著作者意外、誰も利用することができないのです。委員会は著作権保護期間の更なる延長を拒否し、加盟国による独自の保護期間の追加を禁じました。

政府の支援によってつくられたコンテンツもなお、著作権保護期間の対象となってしまいましたが、その代わり、コンテンツの再利用を簡便にすることが求められました。

修正過程ではまた、私が作成したレポート内のタームの語気を弱める結果となってしまいました。当初の私のレポートは委員会への著作権法改正への率直な要求であったものが、最終版ではいくつかの案の査定を求めるのみになってしまいました。残念ながら、このレポートでは欧州議会が今後の法律立案で主導的な立場を獲得することはできませんでした。

 

ふたつのダメージ

議会が合意を形成することができず、評決の結果、失われてしまったとくに重要な二点は以下です。

パノラマの自由とは、誰もが自由に公共の建物の写真を撮影し、建築家の許可なく配信できる自由です。この条項は、EPPS&Dの議員によって、複製された作品の商業利用の際には権利者の許可を得る必要があるとして修正を加えられてしまいました。パノラマの自由を禁じることは多くのEU加盟国の現行の法基準をさらに制限するものであり、多くのクリエイターを法的不確実性のもとに曝すことになります。また、InstagramやFlickrなどにアップロードされた写真の合法性も問われることになってしまいます。たとえばドキュメンタリー映画をつくる際には、その映画に映ったすべての公共の建物、さらには建物に描かれた落書きにまで、その著作権の所在を確認することが求められます。これは馬鹿げているとしかいいようがありません。

 

また、現行のテキストの引用の自由ををオーディオビジュアルにまで拡大することを求めた、「オーディオビジュアル引用」の条項も取り消されることとなってしまいました。その結果、引用を多用するユーチューバーやポッドキャスターは依然非合法な存在になっています。また、GIF画像などのやりとりも多くの国で違法になってしまうのです!!

 

守られた自由

私のレポートの草稿には550以上の修正が加えられました。そのなかには、インターネットの自由、そして公共の自由を今後長きに渡って脅かす可能性のある修正も多くありました。交渉の過程で、私はそれをなんとか阻止することができました。

たとえば、パブリック・ドメインに関するあらゆる好意的な文言を削除するという修正。私たちの現在の文化的財産は、著作権によって保護されていない、もしくは著作権の保護からぬけおちた多くの作品によって成り立っています。最終報告では、パブリックドメインへのセーフガードとデジタル化されたそれらの作品がなおもパブリックドメインへ留まり続けることへの強い要求がなされました。

 

また、新聞社への付加的な著作権保護措置。ドイツとスペインでは、これらの法がニュースアグリゲーターによるニュースのリンクの自由を強く阻害し、ウェブ上のイノベーションに多大な脅威をもたらしています。一方で、新聞社には目に見えるなんの利益もありません。この修正も阻止されました。

 

さらに、図書館への本のデジタルデータの貸し出しを許可するという条項の、「マーケットベースでの解決策」を求める修正案も阻止されました。オフラインでの図書館の役割がそうであったように、図書館は公共の福祉に貢献するよう、広い範囲での法的基盤が必要です。最終報告ではe-貸し出しの利用を奨める文言が残されました。

 

また、デジタルロックを推奨する修正案も提出されました。これは、私的複製の自由という、著作権保護の例外措置によってユーザーに与えられた権利を脅かすものです。交渉の結果、私的複製はデジタルロックによって制限されないという明確な文言が残されました。

 

いくつかの修正案では、オンラインでのリンクのシェアが「著作権作品の不認可の複製」として違法化される可能性がある文言が提出されました。ハイパーリンクの違法化は、インターネットの自由を根底から脅かすものです。最終的に、私はこれらの文言をすべて除外することができました。著作権法をデジタル時代のものにアップデートすることが目的の改正案で、状況を悪くすることは避けることができました。

 

戦いはこれからだ!

まだ、私たちの闘いは終わりません。7月9日、この最終報告は欧州議会本会議で採決されることになります。そしてその数ヵ月後、欧州委員会に提出する法案の議論が欧州議会で始められることとなっています。

私はこれからも、ユーザーの権利、公共の権利を著作権法案にしっかりととどめていくため、またデジタル時代に沿った著作権法をEUで施行させるために、よりよい案を盛り込めるよう、努力していきます。

ぜひご協力をよろしくお願いします!

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